極上パイロットが愛妻にご所望です
 私たちGSは『王子』と呼ぶのも恐れ多くて、『桜宮さん』や『桜宮副操縦士』にしている。それどころか、目と目を合わせることもおこがましく、遠くから眺めるしかない存在だ。

 桜宮家には彼の上に兄・優成(ゆうせい)さんと、姉・(はな)さんがいる。

 三十五歳の優成さんは我が社の専務取締役で、最高財務責任者。そして独身。華さんは三十二歳で外国に住んでいると聞いている。

 次男同様、優成さんも端整な顔立ちのイケメンと聞いており、モテモテだそうだ。

 桜宮さんはジュニアハイスクールからアメリカに留学。大学を飛び級の二十歳で卒業し、パイロットの免許を取得した華々しい経歴の持ち主。

 帰国後、順調に副操縦士になり、三十一歳の若さで来月の五月から機長になる。
 
 航空業界では最年少機長で独身。

 転職前でさえ、颯爽と歩く桜宮さんの姿はときどき目にしており、私の憧れの人だった。

 情報に疎い私でも、彼の恋人になりたい女性たちが列をなしていると噂を耳にしていた。

 CAやGSの女性たちが目の色を変えているらしい。

 機長と桜宮さんが私の横を通り過ぎる。もちろん彼らがこちらへ意識を向けることはない。

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