あなたのその声で…
なんとか部屋を決めてたもらいたいあたしも、さすがにそれだけは、『YES』とは言えなかった。


「さすがにそこまでは出来かねます。この部屋はつい半年前まで入居者がいましたが、その手のクレームも受けたことはないですし・・。問題ないと思いますよ?」

そう説明すると、”彼女”は諦めたように俯いたのだ。




けれど、その『被害妄想』は収まっていなかったらしく、「部屋を空けている時に誰かが侵入して、部屋を物色した形跡がある。」と言ってきたのだ。

今回の『お願い』とは、それに伴った鍵交換。


あたしは、「それ、警察に届けたほうがいいんじゃ・・・」と言いかけて口をつぐんだ。


(この人は理由は分からないけれど、警察に追われているんだった。鍵交換ヘタな事言わずに要求に応じておいたほうがいいかな。)

そう考えて「費用はお客様持ちですよ~」と承諾を得たうえで、作業に行く日を約束した。


”彼女”はやはりあまりあの部屋には帰っていないらしく、『後日会社に鍵を取りに行くから、荷物もないし、勝手に作業をしておいてほしい。』とのことだった。




電話を切り終えてから、ふと、刑事たちとの約束を思い出す。



(こんな内容でも、連絡したほうがいいのかな?・・)


そう思い、若手刑事が置いていった名刺を取り出した。


名前の下に、あまり上手とは言えない字で書かれた携帯の番号。



あたしは、受話器を取ってそれを押した。
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