あなたのその声で…
2人が帰ったあと、あたしは雑務に追われて、気が付けばすっかり定時の時刻になっていた。


(”彼女”に電話しなくちゃ・・。)



あたしは入居者名簿を広げて”彼女”の連絡先を探し出す。


受話器をあげてプッシュボタンを押した。



「ふぅ。」

あたしは小さくため息を吐く。


ウソをつく前はいつだって緊張する。


先ほどの刑事とのやりとりを思い出しながら、あたしはヘマをしないように、言うべきセリフを頭の中で練習していると、急にコールが途切れた。


「も、もしもし?」

あたしは、ひっくり返りそうになる声を抑えながら背筋を伸ばした。



「おかけになった電話は、只今・・・」



留守電へと誘導するメッセージが響く。



「なんだ・・。」


小さくつぶやいて、あたしは、メッセージを残した。


「今週の日曜日、別件で出社することになりました。鍵、お急ぎでしたら、日曜日にお渡しできますので、ご連絡ください。」



なるべく無表情なトーンで。


うまく言えたと思う。



あたしはほっとして受話器を置いた。



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