あなたのその声で…
刑事さんはスタスタと歩き出す。



あたしはだまってその後に続いた。



しばらく歩いたあと、1件の店の前で刑事さんは立ち止まった。


外から見る限り、若者向けのパブといった感じだ。


刑事さんの印象からあまりにもかけ離れていたので、思わず言ってしまった。


「なんか、意外、ですね。」


「うん?」


刑事さんはチラリとあたしを見たけれど、だまって店内へ入ってしまった。







「お!めずらしいね。いらっしゃい。あれ?女の子連れ?ますますめずらしい。」



カウンターの中から、30代後半ぐらいの、茶髪でいかにもチャラチャラした感じのお兄さんが刑事さんに声をかける。


「ちっす。奥、空いてます?」


刑事さんは、その冷やかしに答えることもなくいつもの定位置なのか、奥の席へと勝手に進んだ。


あたしはチラっとカウンターのお兄さんを見たけれど、目が合うとニコっと笑っただけだったので、そのまま刑事さんの席へ向かった。




席について3分。


刑事さんがだまっているから、あたしも何もしゃべれなかった。


しばらくすると、何も注文していないのに、さっきのお兄さんが勝手にビールを2つ持ってきた。


「ほい。」

軽い感じで、一つずつあたしたちの前に置く。


とりあえず乾杯して、一口ビールを飲み込むと、あたしはさっき散々飲んだせいもあって、一度グラスを置いた。


それを見て、刑事さんが

「ごめん。勝手にきちゃったけど、ビールキライでした?」


と言った。


あたしはまたフルフルと首を振りながら、「キライじゃないです。むしろ好きです。ただ、さっきけっこう飲んだので、お腹いっぱいで・・。」


答えながら、お腹がいっぱいなのは、もしかしたらビールのせいだけじゃないのかも。と思った。

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