あなたのその声で…
最初は、あたしたちの会社が、賃貸物件を掲載している情報雑誌を見た“彼女”からの問い合わせから始まった。


その物件は、築10年で、2K。なのに賃料が36,000円といういかにも『いわくつき』と疑われそうな物件。

理由は立地にあった。その物件は『いわく』もなにもないのだけれど、とにかく立地が悪いのだ。

周辺に中心部へアクセスできるような交通手段はなく、買い物だって、車で10分以上走らないとできる場所はない。

ずっと客付けに苦労していて、オーナーに泣きついて賃料を下げてもらった。

無理やり賃料を下げた手前もあって、一日でも早く、お客を付けてしまいたかった。


その物件への問い合わせだから、あたしは詳しい説明もそこそこに、“彼女”と物件の近くで待ち合わせた。


待ち合わせ場所へ行くと、真っ白なクラウンに乗った一人の女性と、一人の少女が待っていた。

あたしはとびっきりの笑顔で声をかける。

「お電話いただいた方ですかぁ~?」

作り笑顔も、作り物と分からないほど、上手くなった。

あたしはクラウンに近づいた。
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