あなたのその声で…
「子供のこと・・・。」
彼が口を開く。
耳を塞いでしまいたいけれど、それすらできない。
怖くて体が全く動かなかった。
「最近、周りの友達で離婚したやつがいて・・・。子供に会えないのが一番辛いって言ってた・・。」
あたしは、彼の言ってる意味が全く分からなかった。
「お前、お母さんらしくないじゃん。」
彼は次々と言葉を投げつけてくるけれど、あたしには全然意味がわからない。
「何が・・言いたいの・・・?」
そう言ったあたしの顔を見た彼は、気づけば大粒の涙を流していた。
彼が泣くなんて・・・。
これから言われようとしていることより、その事実の方がずっとショックだった。
そんなに、涙を流すほど、あたしと一緒にいるがイヤなの?それとも、それはこれからあたしたちが犯そうとしている罪への償いの涙なの?普段、みんなのリーダーとして先頭に立ってたあなたが、絶対に涙となんか無縁のあなたが、そんなに泣いてしまうほど、あたしがしていることはいけないことだったの?『子供を作ろう』そう言ったのはあなたじゃなかったの?
言いたい言葉が、次から次へと溢れるけれど、それはあたしの口から外に出ることはなく、またあたしの胸へと戻ってくる。
その言葉の塊が、熱くて、熱くて、あたしは逃げ出してしまいたかった。
「今日まで、ずっと考えてた。早くお前に言わなくちゃって。きっと子供はどんどん大きくなってく・・。そしたら・・・」
「堕ろせなくなっちゃうもんね。」
カラカラの声で、あたしは言った。
お腹の【命】は、このとき4ヶ月に入るところだった。