あなたのその声で…
陣痛を起こす薬が、投与された。





1時間ほどしてからやってきた、生まれて初めて感じる痛み。



それはどんどん間隔を狭くして、あたしは分娩台へと運ばれた。




分娩台へ上り、大きく足を広げたあたしの間から、先生の頭が見える。



「まだ、もう少しかかるかなぁ」


聞こえるか聞こえないかの声でそう言った先生は、その状態のあたしを残したまま、どこかへ行ってしまった。



看護士さんがきて、「もう少しかかるみたいだから、頑張ってね。」
と声をかけるが、その人もまた、どこかへ行ってしまう。



一人きりの分娩室の中で、あたしはたった一人、両足を広げながら、陣痛を耐えた。




そして20分も過ぎたころ、足の間から、大量の液体がドバっと音をたてて、溢れ出した。




「え?せ、先生!」


あたしはびっくりして隣の部屋にいるであろう先生を呼んだ。




先生が走って室内へ入ってくる。


「破水、したんだね。」


そう言って、またあたしの足の間を見た。




「うん、頭、見えてきてる。いきめる?」


そう言われても、どういう風にして良いのか分からなかったけれど、想像の中の出産シーンを思い浮かべながら、いきんでみた。



途中まで、何かがあたしの足の間から顔を出しているのが分かる。



けれど、それ以上、何かが起る気配はない。



「また、少し様子みて。」



また先生が隣へ行こうとしたその瞬間、デロンとなにかが滑り出た。




「あ・・・。」


あたしは思わず声を出した。


振り返った先生が、「赤ちゃん、出たね。」


そう言った。





















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