あなたのその声で…
「それでね・・・」



と“彼女”が話を続ける。


「今の部屋狭くなっちゃうから、もうちょっと広い部屋を探そうと思って・・・」






あたしは、(引っ越しは出来ないかもしれないのに・・・)などと思いながらもいくつか部屋を紹介した。



30分程話をしただろうか・・・



ふいに“彼女”が

「いけない!パパが下で待ってるんだった!」

と席を立った。




あたしは思わずゴクリと唾を飲む。



ココから出れば“彼女”は、【逮捕】されてしまうのだ。



けれど、まさか引き止めるわけにもいかず、あたしは事務所の出口まで“彼女”を見送りに出た。




「ありがとうございました!」


“彼女”が廊下を曲がり、見えなくなったところで、あたしは軽くため息をついた。




事務所へと戻る。



入った瞬間、「ギャッ!」と情けない声っが出てしまった。




入口のすぐ脇の壁に寄り掛かっていた刑事さんとぶつかってしまったのだ。



とっさにあたしは、くるりと後ろを向かされ、口を塞がれた。




「んっ・・・!」




3分ほどその体制が続き、あたしはやっと開放されて、開口1番「何するんですか!」と叫んだ。



「すみません、彼女がまだエレベーターに乗っていない可能性があったので・・。」




全く悪びれ様子もなく、いつもの調子で淡々と説明する刑事さん。



その態度にイラっとする反面、さっき口を塞がれたときに、後ろから抱き締められた感触がまだゾワゾワとあたしを支配していることに気付き、自分に制御をかける。




刑事さんが、空いてるデスクにストンっと座ったので、あたしも仕方なく、自分の席に座る。



ドキドキを悟られないように、さっき途中で投げ出してしまったゲームを再開した。



< 46 / 79 >

この作品をシェア

pagetop