あなたのその声で…
「特に問題はないですか?賃料の滞納とか、近隣からのクレームとか…」


あたしが提出した契約書には、2人のほしかった情報は記載されていなかったらしく、“とりあえず”といった感じでコピーを依頼しながら、次々と質問してくる。

隠してもしょうがないことだし、かばう必要もないので、あたしは、聞かれるままに答えた。

若手の方は、あまり経験が少ないのか、それともベテランがしゃべりすぎるのか、一向に口を開く様子はなかった。

「彼女からの一番最近の連絡というのは、いつありました?」

あたしは記憶をたどる。

そもそも“彼女”は入居してからすでに1ヶ月近くたっている。

不動産屋と入居者の関係なんて、契約が成立してしまえば、何かがない限りほとんどない。

「あ。けど、2週間くらい前に一度ありました。住所教えてくれって。」

そう、彼女は、生活保護を受けていて、役所に行った際、なにかの書類に記入するために、電話をかけてきていた。

「?入居して、時間がたっているのに、まだ自分の住所を覚えていなかったんですかね?」

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