あなたのその声で…
数回のコールの後、いつものハスキーボイスがあたしの耳に心地よく響く。


そう、あたしはいつもこの声を待ちわびていた。


不謹慎だけれど、刑事さんの「仕事」を利用して、いつだってこの声を、あたしは聞きたかったんだ。


改めて確信する。


「どうしました?」



少しだけ慌てている様子の刑事さんの態度に少しだけホッとした。


けれどすぐに、何も用事がないのに勢いで電話してしまったことに気がついた。


「あっ....。」


「?」


(どうしよう!勢いで電話しちゃったなんて言えない....。)





あたしは、お酒が入っていたせいもあって、つい、言ってはいけないウソを、ついてしまったんだ....。




「電話、きたんです。彼女から....。」





「すぐに行きます!今どこですか?」




あとに引けなくなって、いた。


(どうしよう、刑事さんがきちゃう。けど、まさか電話きてないなんて言えないし....。)


そんなことを考えている間に、あっと言う間に刑事さんから電話がきた。


「今、店の外にいます。出て、これますか?」

「.....はい、今行きます。....。」


一緒に飲んでいたメンバーにブーブー言われながら店を出た。


店のの出口を出た瞬間、クールな顔に少しだけ心配そうな表情をのせた刑事さんを見つける。


あたしは、ウソをついていてやましいはずなのに、思わず笑みがこぼれてしまう。


「すみませんでした。急に電話してしまって....。」


「いえ、これも仕事ですから。」


また、”仕事”。


あたしは、さっき刑事さんを見つけた時の暖かい気持ちを押し込めるしかなかった。



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