屍病
「私は真倫。こっちが雄大で、こいつが桐山」


「なんで俺だけ苗字なんだよ。俺は祐也だ。祐也さんって呼べばいいぜ」


真倫ちゃんの紹介が不満だったのか、大河くんにそう言って見せた桐山。


大河くんはぺこりと頭を下げて、抱いている赤ん坊を見た。


「えっと……その子の名前は?」


私が尋ねると、大河くんは首を横に振って。


「知らない」


そう小さく呟いた。


「知らないって……いやいや、知らないわけないだろ? じゃあどこの子だよ」


「僕が逃げてる時に、車の中にいたんだ。お父さんもお母さんも皆おかしくなったから……助けないとと思って」


私達でさえ、何人も犠牲者を出して生き延びているのに、この子達はひとりで生き延びたっていうの?


あれからどれくらいの時間が経ったのかはわからないけど、運が良い。


「そうか。それにしても困ったな。大河くんは良いとして、この赤ん坊の食べ物もオムツもない。また、取りに行かなきゃならないのかな」


雄大が頭を悩ませる。


最悪、オムツは何でも代用すればいいとして、ミルクはどうにかしないと。


私達でさえ食糧に困っているのに、取ってきた食べ物を与えることすら出来ないのだ。
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