屍病
だけど、風雪はそんな真倫ちゃんに逆に詰め寄って、不満をぶちまけた。


それも、真倫ちゃんがあえて声のボリュームを抑えたというのに、それすら気付かないのか、教室中に響き渡るような大声で。


「ね、ねえ。お姉ちゃん。愛莉お姉ちゃん!」


そんな中、大河くんが赤ん坊を抱きかかえて、不安そうな顔で私を見ていた。


「大丈夫、大丈夫だよ大河くん。何とかするから……」


小さな男の子に、この状況をどう説明すればいいかわからずに、無責任なことを言っていると自分でも思うけど。


「ち、違うんだ。そうじゃなくて。赤ちゃんが……冷たくて息をしてない!」


「えっ?」


口論を続ける真倫ちゃんと風雪の言葉が、突然聞こえなくなったような衝撃を受けた。


茂手木や高下、死を目の当たりにした事はあって、慣れたとは言わないけど……こんな赤ん坊がまさか。


大河くんが抱いている赤ん坊の頬にそっと触れてみる。


確かに冷たい。


だけどこれだけじゃわからない。


そっと瞼を指でつついてみても、赤ん坊はピクリとも反応しなかったのだ。


胸に耳を付けても心臓の音が聞こえない。


「そんな……死んでる」
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