屍病
風雪も驚いたようで、目を見開いてその様子を見ていることしか出来ないでいる。


「テ、テメェッ! ふざけた真似をしやがって!」


強引に身体を起こし、内股で凄むけれど、さっきまでの迫力を感じない。


「散々踏んづけてくれて。もう一回蹴ってあげようか?」


素早く起き上がり、真倫ちゃんがそう言って足を上げると、ビクッと反応して山中が一歩後退した。


でも、背後は窓。


腰が窓枠に付いて、これ以上後退も出来ない。


その時だった。


「くそ……くそっ! うわあああああああっ!!」


ゆっくりと起き上がっていた大河くんが山中に駆け出して……そして。


逃げ腰の山中の右脚を掴んだのだ。


「お、おい、ガキ! 何しやがる! 殺すぞ!」


拳を振り上げたと同時に、真倫ちゃんがまた足を上げた。


「ひっ!」


それに驚き、身体を反らした山中。


「こ、怖くないぞ! 僕はそんなの怖くない!」


身をすくませて浮いた山中の足を……大河くんがすくい上げるようにして持ち上げて。






窓枠を軸に、山中は窓の外に落下して行ったのだ。





「えっ?」


風雪の声が静かな教室には響く。


その声は、風雪だけでなく、私達の声でもあった。
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