屍病
しばらく走って、小さな橋までやって来た。


あまりの恐怖と、それから生じる震えで、想像以上に体力を消耗しているのがわかる。


「な、なんとか……逃げられたみたいだ」


運動が得意な真倫ちゃんでさえ、汗びっしょりで膝が震えているのがわかる。


「お、おい! あれは何だったんだよ! あの灰色の化け物はなんなんだ! 前田と畠山が食われちまったぞ!」


クラスでは目立つ部類の、いつも強がっている桐山でさえ、涙を流している。


あの恐怖がどれほどのものだったのかを物語っていた。


「あの二人だけじゃないわ。気付かなかった? 屋台の近くにいた親子連れ……子供達も襲われていたことに」


なんとか平静を保とうとしている様子の茂手木も、街灯の光でもわかるくらい顔色が悪い。


私達の中に、まともな精神状態でいられる人なんて誰もいなかった。


「と、とにかく警察に電話しよう。あ、あんな人喰いがいたんじゃ、怖くてたまらないよ」


そう言って、ポケットからスマホを取り出した高下。


だけど、異常に気付いたのかその指がピタリと止まった。


「嘘……なんで圏外なの!? ここが圏外になるはずないのに!」


高下は慌てるけれど、異変はそれだけではないことに、私は気付いた。
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