屍病
高下のおじいちゃん。


神社の本殿から出てきた大人達の中にいたんだ。


「う……だ、だから、早く家に帰って親に言わないと!」


図星だったのか、視線をフラフラと泳がせながら高下がそう言った。


でも、茂手木の話は終わらない。


「もしもよ、もしも、化け物が湧いたのではなく、大人が人喰いの化け物に変わってしまっていたなら、それは、神社にいた人達だけなの? 鳥居の外にいる人達まで変わってしまっていたのよ?」


その茂手木の疑問に対する答えは誰も持っていない。


ただでさえ人通りがあまりない町で、わざわざ歩いている人を探して化け物かどうかを確かめたいなんて思わない。


家に帰ってみるのが、一番手っ取り早いしわかりやすいのだ。


「……一旦、家に帰ってみようか」


「山瀬さん、ないとは思うけど、もしも……もしも家族があの化け物になっていたら……」


真倫ちゃんの提案に、茂手木が不安そうな声で尋ねた。


その時のことを考えていなかったのか、真倫ちゃんは小さく唸ったあと、川の下流の方を指さして。


「もしもダメだったら、学校に避難するんだ。それくらいしか、私は思い付かない」


土曜日の学校……誰もいないと思うし、それは悪い提案ではないと思った。
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