屍病
……あれ?


イーターが顔を出さないどころか、背中に感じる衝撃もないような。


いや、よく思い出してみたら、いつからそれを感じなくなっていたかがわからない。


「……って、来ない。何がどうなってるの?」


包丁を構えていた真倫ちゃんが、不思議そうに首を傾げて穴に顔を寄せた。


「ま、真倫ちゃん!? 危ないよ!」


相手は知能があるイーター。


もしもこれが罠で、誰かが廊下を確認した時に襲い掛かってきたら……と、考えたけれど、それもなくて。


「どうした、山瀬。廊下の状況はどうだ?」


「え? ああ……イーターがいないんだけど。どうなってるのこれ?」


イーターがいない?


私が見たわけじゃないから、それが本当かどうかわからないけど、もしもそうならこれほど嬉しいことはない。


「そんなバカな。あれほど群がっていたイーターが、あっさりと諦めたとでも言うのか!?」


「いや、本当なんだって! 見てみなよ!」


そう言い、真倫ちゃんと交代して雄大が穴を覗く。


「ほ、本当だ……いなくなってる。芹川も見てみろ」


「え? う、うん」


雄大に促され、立ち上がった私は、ドアに空いた穴から廊下の方を見た。
< 167 / 238 >

この作品をシェア

pagetop