屍病
誰も反論はない。


風雪は何も言わないけれど、反対だったら文句のひとつも言っているだろうから。


「真倫ちゃんはそれでいいの? この町から逃げることに、反対じゃない?」


「うん。私は愛莉と一緒なら、どこにだって行くよ。愛莉と離れたくないから」


なんだろう。


胸がドキドキする。


さっきまでの苦しみとは違う。


心地良い締め付けというか、温かい気持ちだ。


「ありがとう、真倫ちゃん。好き」


きっと聞こえないくらい、小さくそう呟いた。


「よし、じゃあ下山しよう。8人乗りの車を探して、この町から脱出だ」


春瑠さんの言葉で、ようやく皆に笑顔が戻ってきた。


あと少しの辛抱だとわかれば、不思議ともうひと踏ん張り出来るものだ。


「いやあ、それにしてもこの神岩様が割れたのが原因だってなら、あの歌はなんだったんだろうな? 『オリョウ』がどうとかって歌だよ」


桐山が笑いながらそう言った時だった。









パキッ。









という、木の枝を踏むような音が、帰り道の方から聞こえたのだ。


その音に、慌てて懐中電灯を向けた桐山。


光が映し出したのは……ニタリと不気味な笑みを浮かべる神主さんだった。
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