屍病
その怪物が、私達を見定めるように顔を動かす。


そして、狙いを定めたのか、四つん這いでこちらに向かって駆け出したのだ。


狙いは……大河くん!?


「や、やめろっ!」


身動きひとつ出来ない大河くんの前に立ちはだかったのは……雄大だった。


怪物を迎え撃つように包丁を振り上げて、その大きな頭部に思い切り突き立てる。


でも……。







キィン!








金属が折れるような、小気味の良い音が辺りに鳴り響いて。


横に振った怪物の手に弾かれて、雄大が目の前から消えてしまったのだ。


そして直後、神岩様の方から聞こえたグチャッという音。


恐る恐る神岩様の方を向いてみると……眼球が飛び出た雄大の身体が張り付き、弾けたかのようにその周囲に大量の血液と肉片が飛び散っていたのだ。


「は、は? う、嘘だろ? 海原……こんなに呆気なく……」


何もかも信じられない。


出来れば嘘であってほしい。


あの雄大が……こうもあっさりと。


「に、逃げろっ!」


包丁が折れるほどの皮膚。


これは何をしても無駄だと判断したのだろう。


桐山の声で、皆一斉に怪物の横を通って逃げようとする。


でも、そう簡単には行かなかった。
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