屍病
大河くんの手を引いて、私も怪物の横をすり抜けようとした時。


その鋭いナイフのような手が、私の眼前に迫った。


「ひっ!」


反射的に身を屈めて、滑るようにギリギリのところでそれを避ける。


「愛莉!」


「だ、大丈夫!」


本当に危なかったけれど、何とか無事だ。


「大河くん! 頑張って走って!」


手を握り、真っ暗な山道を何度も転びそうになりながらも走る。


桐山の懐中電灯は、随分前を照らしているからあまり役に立たないけど、ないよりはマシだ。


背後から私達を追ってくる足音は聞こえない。


気配も感じなくて、もしかして諦めたのかなと、思った瞬間、踏んづけた石でバランスを崩して、転んでしまった。


ゴロンと前転をするような感じで、山道を転がり下りる。


「お、おいおい! 今の音なんだよ! 何してんだよ!」


前を走っていた桐山が、振り返って私の方を懐中電灯で照らした。


「いたた……で、でも大丈夫。ただ転んだだけ」


と、顔をしかめて立ち上がろうとしたけど……一緒に照らされた真倫ちゃんの顔は、なんだか青ざめているような感じがした。


「あ、愛莉……それ」


「それって……ひっ!」


真倫ちゃんが指さした先。


私の手をしっかりと握る大河くんの手は、手首から先が、切断されていたのだ。
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