屍病
「誰かと思ったら……山瀬に芹川じゃないか。お前ら……大丈夫だよな?」
私達に向けられた光。
懐中電灯が向けられていて、その持ち主が不安そうに私達に声を掛けた。
「お前は……雄大?」
眩しそうに手で光を遮り、真倫ちゃんがそう尋ねると、男の子は懐中電灯を下に向けた。
「ああ、そうだ。部屋で勉強をしていたら、突然母さんが俺に噛み付こうとしてきたから逃げて来たんだ。あれは……正気とは思えなかったんだが」
私と同じクラスで幼馴染みの海原雄大だった。
クラス委員で、勉強もスポーツも出来る格好いい男の子。
「やっぱり……大人は皆、化け物に変わっちゃったんだね。茂手木の予想が当たったってわけだ」
当たってほしくない予想は、いつも当たるんだよ。
結愛の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
一歩間違えれば、私がああなっていたかもしれない。
死のうと思っていたから、結愛の代わりに私が死ねば良かったんだと思いながらも、殺されなくて良かったという矛盾した考えが頭をよぎる。
「とにかく……学校に行こう。この様子だと、あいつら全員学校に向かってるだろうし」
真倫ちゃんの言葉に、私は頷いた。
突然訪れた暗闇の世界、そして変わってしまった大人達。
私達はまだ、何をどうすればいいかもわからないまま、ただ学校を目指して歩くしかなかった。