屍病
意識が、途切れては覚醒する。


どれくらいの時間が経ったのかはわからないけど、また誰かいるようで。


「ママはそろそろ家に帰りなさい。代わりに僕が付いているから」


これは、パパの声だ。


「ええ、わかったわ。愛莉ちゃん……お願い。元に戻って……お願いよ」


そう言って、ママの声は聞こえなくなった。


私は今、どこにいるんだろう。


真っ暗な世界の中で、声だけが聞こえている。


「愛莉……諦めるのか? 生きることを。お前が生きたいなら、パパは何でもする。だから……生きてくれ」


どこかで……聞いたような。


同じ言葉を、どこかで聞いたような気がする。


頭が割れそうなくらい痛くて、思い出すことも出来ないけれど。


「パパ、大丈夫だよ。私は強くなったんだから」


そう、言ったつもりでも言葉にすらなっていなくて。


伝えたくても伝えられないのが、こんなにもどかしいなんて思わなかった。


「愛莉がいてくれないと、家の中が寂しいよ。いつになったら目を覚ますんだい? また、パパって呼んでおくれよ」


涙声で、必死に私に呼びかけるように。


ごめんね、パパ。


悲しい思いをさせて。
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