屍病
茂手木の顔に……牙が刺さった痕がある。


目が潰れ、そこから上を切り裂きながら、額でさらに深く噛み付かれたのだろう。


頭蓋骨が粉砕されて皮膚ごと剥がされ、脳が見えていたのだ。


「う、うえっ!? マ、マジかよこれ!」


「ゆ、唯乃! 死なないで!」


明らかにこれは助からない。


駆け寄る高下には悪いけど、私はそう思った。


でも……。


「あ……ああ……うぅ……葵……ひゃん……」


茂手木が、高下の名前を呼んだのだ。


こんな状態なのだから、死んでいてもおかしくないはずなのに。


「私はここにいるから! ほら、わかるでしょ?」


そう言い、茂手木の手を握りしめるけれど、茂手木の反応はない。


「葵ひゃん……ろこ……」


目が潰れて見えていないのは明白。


もう、見ているのも痛々しい。


「茂手木……な、なあ雄大、茂手木をどうにかしてやってよ! 早く病院に連れて行かないと、このままだと死んじゃうよ!」


あまりに凄惨な状況に、真倫ちゃんが雄大の服を掴んで懇願する。


「む、無理だ。考えてもみろ、病院は大人だらけだ。つまり、イーターが沢山いるってことで……こうなったらもう助からない……」


だけど、雄大が出した答えは、茂手木にとって残酷なものだった。
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