屍病
普段の真倫ちゃんなら、きっと高下でも押し退けて強引に実行したかもしれない。


でも、今回は状況が状況だけに、高下に強く出られないみたいで。


いや、真倫ちゃんだけじゃない。


ここにいる全員、何が正しくて何が間違っているのかわからない中で、答えを探しているのだ。






「葵……ひゃ……」





一瞬静まり返った教室の中、今にも消えそうな茂手木の声が聞こえた。


それに反応して、慌てて屈んで茂手木の手を握る高下。


「う、うん。私はここにいるよ。何? どうしたの?」


「あお……ひゃ……ごめん……ね」


そう、小さな声で呟いた直後、茂手木は言葉を発さなくなった。


なんとなくだけど……最期の力を振り絞って高下に謝って、力尽きたんだと私は感じた。


茂手木の周りにできた血溜まり。


放っておいても、死ぬのはわかっていたことだ。


「唯……乃ぉぉ……」


そしてまた、泣き崩れる高下。


私達にはこれ以上、高下にかけられる言葉なんてなかった。


「皆、出よう。高下、俺達は2年2組の教室にいるからな。気持ちが落ち着いたら、そこに来るんだ」


雄大が、高下に気を遣ってか、そう言って教室を出た。
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