屍病
予想外と言うか、想像していたような、怒って怒鳴り散らすようなことはなかった。


小さくため息をついて、他人事のように話を聞いているだけ。


それが、私に無関心だということがハッキリとわかってしまったけれど、どこかで安心している私がいる。


「だったら、死んだ気でイーターを殺せるよね? どうせこの世界じゃ私達は餌で、なんの権力も権利もないんだ。遠慮してたら食われるんだからさ」


怒るでも、呆れるでもなくそう言った高下は、どこか寂しそうだった。


「お、怒らないの? じゃなくて……私に対してなにも思わないの?」






「自殺しようとしてたんでしょ? もしもその時死んでたら、こんな目に遭わなくて済んだのにね。こんな世界を見るくらいなら、その時に死んでた方が良かったんじゃない?」






その言葉に、私は何も考えられなくなって。


棚に剥き出しで置かれていた、錆びた解剖用のメスを握って高下の服を掴んだ。


「私が……私がどんな思いで死のうとしたか」


「何? それで私を殺そうとしてるの? やりたきゃやりなよ。唯乃が死んで、私は半分死んだようなもんなんだから。でもね、自分で命を捨てようとしたやつが、偉そうなことを言うな!」
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