屍病
高下は茂手木のことを思ってそう言ったのだろう。


死にたいと思って命を絶とうとした私と、苦しみのあまり殺してほしいと懇願した茂手木。


大切な友達にそう言われて、結局殺すことができなかった高下もまた、苦しみ抜いたに違いない。


私はいい。


死ねなくて、こうして面と向かって文句も言えるのだから。


だけど、茂手木にはもう何も言えない。


あの、生きていてほしいと思っても、私達だけではどうしようもなかった状況では、「生きろ」と言うことがどれだけ残酷だったか。


半分死んだとまで言い切った高下にとっては、茂手木はそれほど大事な友達だったのだ。


「いじめられっ子の反撃はもう終わり? 私はダメージ0だけど。私を殺す気なら、文句なんて言わないでメスで刺せば良かったのに」


私の手首を掴んで、見下ろしながら淡々とそう呟いた。


「……できないよ。高下さんは嫌いだったけど、私には人を刺すなんてできない」


「私……いや、なんでもない。できないならそろそろ生徒玄関に行くよ。雄大くん達がそろそろ戻ってくるかもしれないから」


何を言っても、きっと高下は私のことなんて気にもしない。


と、言うよりも、こんな状況なのに、こんな話をするべきじゃなかったんだ。
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