屍病
「アは! あは! いたダキまス!」


そうじゃなくても防げないほどの力で、今にも噛み付かれそうだ。


「た、高下さん!」


「何もできないなら……あんたは逃げなよ!」


その言葉は、高下に見捨てられたような気さえした。


私が食われそうな時は助けてくれたけど、そんな私は高下が嫌いで。


きっと助けてくれないと思ったのだろう。


そんな、突き放された気さえして私は……。








私は。








「はヒゅン……」


棚に何本か置かれたメスをまとめて掴んで、それをイーターの首に突き刺した。


床に倒されて、見上げる高下は驚いたような表情を浮かべていたけど、イーターの力が緩んだと判断すると、手にした包丁をイーターの目に突き刺したのだ。


「た、高下さんから離れて! この……化け物っ!!」


抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返し、イーターが力なく床に倒れても、私は何度も刺し続けた。


必死に、全ての不満をぶつけるように。


そして、刺さったままのメスを見て、フライパンでさらに打ち付けた私は、高下さんを見た。


「何もできない臆病者かと思ったら……やるじゃない」


「高下さんも、助けてくれたでしょ」


気の利いたセリフなんて思い浮かばない。


ただ、助けてもらったのに見捨ててしまえば、それはいじめをするよりも酷い行為だと思ったから。

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