屍病
私達が足を止めて悩む。


音楽室に逃げ込むには引き返すしかないのに、イーターが今にも入ってこようとしている生徒玄関の前を通るのはかなり抵抗がある。


その思いが、私達の足を止めていたのだ。


「な、悩んでる暇はない! キ、キミ! 赤ちゃんを抱っこして、三階の廊下の一番端に行ってるんだ。出来るな!?」


雄大が、おぶっていた男の子を下ろして、説得するように両肩に手を置いてそう言った。


男の子は今にも泣きそうな顔だったけど、何度も首を縦に振って、真倫ちゃんから赤ん坊を渡されると、しっかりと抱いて階段に向かって走った。


「鍵を取りに行くだけなんだから、ひとりで良かったんじゃない?」


男の子を見ながら、高下が尋ねた。


「それじゃダメなんだ! もしも、鍵を取りに行った人が殺されでもしたら、音楽室の前で待ってる人達は隠れることもできなくなる!」


「つまり……私達で鍵を取りに行って、イーターを引き付けながら音楽室に向かわなきゃならないってこと!?」


ただ逃げるだけでは、イーターが散り散りになってしまうかもしれない。


理科準備室にいたイーターがそうだったように、どこにいるかわからないイーターというのは、私達には脅威でしかないから。


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