探偵I(タンテイアイ)【第2巻】
「こちらの会社は名の通った会社で、事業を拡大したばかりのようです。なんでも、うちの会社から優秀な社員をすぐ抜擢をして連れてきてほしいとのことで──」
「それで、うちの会社からは、俺だけなんですか……?」
「はい、豊崎さんだけです。忍耐強く体力に自信がありそうで、若くて優秀な社員が良いと言われましたもので、人事の方で豊崎さんを選ばさせてもらいました」
「俺だけ……、なるほど……」
「今日の午前中に営業部にある荷物をまとめて、午後からはこちらの会社へ行って下さい。それから、向こうの会社へつきましたら、総務部の武市(たけいち)さんをお尋ね下さい」
「ちょっ……、ちょっと、待って下さい!今日中ですか……!?」
「はい。無理ですか?やっぱり、急すぎて無理ですよね。なんなら、このお話を、すぐにお断りしましょうか?」
「いえ、いえ断らないで下さい。……わかりました」
「では、私からの説明は以上です。どうも、ご苦労様でした」
人事部の香川が机の上の書類を手早くまとめて、まだ部屋に残っている泰平に軽く会釈をしドアをバタンと開け部屋を出た。