お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》

ウォーレンはこの頃貿易の仕事で隣国の業者と打ち合わせをすることが多く、度々、メルが同席してサポートをしていた。

すると、ダンレッドが明るく笑ってルシアに声をかける。


「大丈夫だよ、お嬢さん。体は心配だけど薬はメルが管理してるし、最近は発作もなくて落ち着いてるみたいだから。」


まだ少し不安げなルシアを見て、メルはそっと彼女の隣に腰掛けた。


「確かに旦那様はご多忙ですが、よほどのストレスがかからない限り仕事の制限は必要ないと主治医の先生もおっしゃっていました。」


メルの穏やかで優しい声がルシアに届く。


「それに、今日のようにご友人と会うのも良い気分転換になっていると思いますよ。私も旦那様の体調には気を配っていますから、安心してください。」

「…そうね。気にしすぎもよくないわね。」


ほっと笑みを見せるルシア。

彼女にとって、メルの言葉には絶対の信頼があった。

それは、今まで築き上げてきた関係の上にあるから、というのもあるのだろうが、それ以上にメルに対する特別な感情の作用であることをダンレッドは察していた。

お嬢様と執事という信頼以上に、二人がお互いに好意を寄せていると気づいたのは、一体いつからだろう。それが分からなくなる程ずっと側で見守ってきたダンレッドにとって、二人の気持ちの変化はごく自然なものであった。

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