お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
噛み付くようなセリフ。
つい、ムッとしたメルは、苛立ちを抑えて答える。
「断る。」
「なんで。」
「そんなの、常識外れだ。執事がお嬢様を連れて駆け落ちするなんて、旦那様にも顔向けが出来ない。」
「今は、メルとお嬢さんの話をしてるの。世間の一般論なんてどうでもいいし、旦那様だってそっちの方がいいって言うに決まってる。」
ダンレッドは、可愛げがある顔に似合わず頑固な面があった。
素直でお人好しな反面、自分が納得出来ないものはとことん受け入れないし、正しいと思ったことは曲げようとしなかった。
それが二人を思ってのことだとは痛いほど分かっていたメル。しかし、それに頷く事はできなかった。
「悪いけど。お嬢様が自分で選んで積み上げてきたものをぶち壊すようなことはできない。」
ダンレッドは、強い衝撃を受けたような顔をした。それは、困惑などとは桁違いの真に受けられない表情。
メルは一瞬怯んだが、声色を変えずに言葉を続けた。
「お嬢様が決めたことに、俺は従う。」
「なんだよ、それ…!」
ダンレッドが、立ち去ろうとするメルの腕を掴んだ。