お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
「待ってよ、メル!メルだって思ってるんでしょう?このままじゃダメだって!」
「離して。彼女は受け入れてる。今さら俺が何を言ったって無駄だよ。」
「何言ってるの?!お嬢さんが何も言わないのは、メルに止めて欲しいからだよ!メル、女心分かってなさすぎ…!!どうしてメルが逃げるんだよ!お嬢さんの気持ちにだって気付いてるくせに!」
動きが止まった。
その時、堪えきれない思いが溢れる。
「仮に、お嬢様を連れて逃げたらどうなる?お前、考えたことがあるのか?」
自分でも信じられないほど冷たい声が出た。
ダンレッドは小さく肩を揺らす。
「その先の暮らしは?仕事は?収入は?俺と逃げて、彼女にどんなメリットがある?クロノア家に何が残る?俺の引き抜きの時とは訳が違う。気持ちだけでどうにかなるなら、世の中こんなに生きづらくない。」
「メリットならあるよ!貧乏なんて、好きでもないやつの妻になるよりよっぽどいい!メルだって、お嬢さんのことが好……」
「うるさい!」
初めて、メルが声を荒げた。
振り払う腕。
ダンレッドは驚いたように目を見開く。
「お嬢様は、姫になった方がいい暮らしが出来る。俺は執事だから、彼女の意見に異議を唱える事はしない。いつまで話したって同じだよ。…悪いけど、この後は人と待ち合わせてるんだ。もう、いいか。」