お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


「俺もルシアのことは小さい頃から知っている。お前の気持ちは、自分のことのように理解できるつもりだ。…だが、もし将来、隣国の王から女性物のドレスを仕立てるよう頼まれたら、俺は従う」


ロヴァは、水滴をなぞりながら低く続けた。


「どんな地位や名声を手に入れようと、俺も所詮はただの老いぼれ。それに、俺の仕事は貴族のツテがあってこそだ。王族の圧力とやらには抗えんよ」


現状を受け入れている事実を責めない言葉。
その優しさは、メルの心を突き刺していた。


「メル。お前の選択は間違っていない。だが、それしかできないお前は不幸だ。それを正しいとするこの世も歪んでいる」


吐き出すことのない想いが、体の奥からこみ上げる。頭をよぎっていたのは、ダンレッドの声だった。


『俺が聞きたいのは、姫になるからとか、執事だからとか、そんなんじゃない!メルとお嬢さんが幸せじゃないなら、そんなの、何の意味もないって言ってんだ…!!』

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