お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
(俺は、幸せになんかならなくてもいい。ただ、彼女さえ笑ってくれれば。本当にそれだけ。…俺の願いは、守るべきものは、それだけしかないはずなのに)
黙り込むメルに、ロヴァが静かに呼吸をこぼした。
目を細めたロヴァは、その場の空気を和ませるように、カッカ、と笑う。
「まぁ、なんだ。要は、俺の前では気張らなくていいってことさ。ここにお前の敵はいない。今夜くらい、好き勝手に胸の内を明かしたって……」
その瞬間。
メルが、目の前のグラスを一気に飲み干した。
一瞬で消え去ったシャンパンに目を見開くロヴァ。言葉さえ失った彼の目に映ったのは、カァン!とテーブルにグラスを置き、ガサゴソとコートのポケットに手を入れるメル。
そして、やがて目の前に差し出されたのは、ケータイの画面だった。
まばたきをするロヴァの耳に、低く艶のあるメルの声が届く。
「よく知った男の番号です。醜態を晒したら、彼に連絡をお願いします」