お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
ぽやん、としたローズピンクの瞳が、ダンレッドを映した。お互い数秒見つめ合うが、何も言わないメルは顔をしかめる。
そして、ふいっと顔を逸らし、再びロヴァに寄りかかるメルに眉を寄せるダンレッド。
彼らのやり取りを見て、ロヴァは苦笑している。
「ほら。俺に掴まっていいから。立てる?」
「…無理…」
「え?」
「…帰りたくない…」
「女の子みたいなこと言わないで。そんなこと言ってるなら本当にかっ攫うよ?」
「…いいよ…」
「メルってば…!!」
そんな会話に、くくっ、と喉を鳴らすロヴァは、どこか安心したように息を吐いた。
ダンレッドはしおしおと彼に声をかける。
「すみません、ロヴァさん。俺が責任を持ってロヴァさんのことも家まで送ります。きっと、メルは酔いが覚めたら元に戻ると思うので…」
「いや、俺のことはかまわない。今日はこのままメルを見てやってくれ。それにしても、電話一本で飛んでくるなんて驚いた。早かったな」
「お前のとこの執事がダメになった、って聞いたら、誰でもこうなりますよ」
苦笑してロヴァを見つめるダンレッド。
「すまんすまん」と笑い返したロヴァだったが、ふと、メルへと視線を落とす。
そこに映ったのは、できてからそう時間が経っていないと思われる、メルの口角の傷だった。
「なぁ、ひとつ聞くが。“これ”、お前の仕業だろ?」