お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
肩を震わせるダンレッド。
二人を見つめるロヴァは、静かに言葉を続けた。
「何があったかは大体想像がつく。メルは外見に似合わず頑固で面倒くさい男だからな。自分の気持ちも、あまり口にしようとはしない。なんでも抱えてボロボロになる癖に、それを乗り越える実力も持ち合わせているから厄介なんだ。…ふっ。メルは、よほどお前を信頼しているようだな」
「え…?」
「だって、そうだろう?このプロ意識の高い男がこんな気を許せる奴なんて、そうそういない。付き合いの長い俺は別としてな」
穏やかに目を細めたロヴァは、メルをダンレッドに預け、席を立つ。
「メルは弱みを見せるのが嫌いな男だ。執事としても一流で、仕草一つとっても隙がなく、誰もが見惚れるほどの品がある。だが、この男は器用になんでもこなすようで、人一倍不器用だ。ま、お前なら、よく知っているだろうけどな」
伝票をひらり、と手にした別れ際、ロヴァはぽん、とダンレッドの肩へと手を置いた。
「メルをよろしく頼んだぞ」
そのまま会計を終えて酒場を出て行く彼に、ダンレッドはただ後ろ姿を見つめることしか出来なかったのだった。