お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
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一定の間隔で揺れる体。
心地よいリズムに目を開けると、メルの視界に映ったのは、見慣れたこげ茶色の髪だった。


「……ダン……?」

「そのまま寝てなー、酔っ払いさん」


軽々と背負われている状況を理解するメル。
歳下の男に子どものように運ばれて若干の羞恥心が込み上げたが、どうにも体が重く、自力で歩くことも難しい。
横抱きにされるよりはまだマシだ、と自分に言い聞かせ、素直に彼の背中に体を預けた。


「もー、こんなになるまで飲むなんてダメじゃん。明日も仕事あるんでしょ?」

「……ん」

「ロヴァさんにも、あとでちゃんとお礼するんだよ?」

「……ん」


こくん、こくん、と頷くメルに、苦笑するダンレッド。
いつも叱られているが故に、立場が逆転したこの状況が少し可笑しい。

ダンレッドは一息置いた後、気遣うように続ける。


「さっきはごめん。頬、痛かったでしょ…?」

「さすがにね。でも、謝らないで。全部分かってるから。…ダンは優しいな。もう愛想を尽かされたと思ってた…」

「まさか…!俺がメルを嫌いになるなんてありえないよ」

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