お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
暗闇の中で佇んでいた男達が、一斉にこちらを向いた。その顔には覚えがある。奴らは、市場でウォーレンにスリを働き、ダンレッドによって制裁を受けた窃盗団だ。
来訪者が来るとは思いもよらなかったのだろう。メルの登場に動揺した男達は、顔を隠す余裕もない。
(やはり、業者に紛れ込んでいたか。)
不穏な動きを見せていた男を、瞬時にマークしていたメル。昼間、男らをあえて泳がせていたのも一人で倉庫にやって来たのも、すべて窃盗団の思惑を阻止するための算段であった。
そして、クロノア家の屋敷から港の防犯カメラに繋ぎその正体を突き止めたのはつい数十分前のこと。
メルは、物怖じせずに倉庫へと足を踏み入れ、男たちに告げた。
「おおかた、昼間俺たちを尾けてきたお前らは、旦那様の素性と貿易の話を聞きつけ、隣国のウィスキーを盗み取るつもりだったんだろう?ご丁寧にトラックまで用意して。」
男たちの表情が焦りに変わる。
「それとも、市場での腹いせに樽を全部叩き割るつもりか?」