お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


ドッ!と勢いよく樽に刺さった男の剣は、もう力づくでは抜けない。男は動揺したまま足を払われ、呆気なく地面に転がされている。

窃盗団の視線の先にあるのは月明かりに照らされる綺麗な少年。

少年よりも遥かに腕力も背丈もあるはずの男が返り討ちにされるなど、誰が予想していただろうか。華奢なシルエットからは想像できないメルの精錬された体術に、男達は息を呑んだ。

品がありながらも容赦のない一撃を受け、倒れた男はすでに気を失っている。


『お前ら、やっちまえ!!』


怒りに顔を紅潮させた窃盗団。数はざっと十。

身軽に男達の拳を躱していくメルは、しなやかな身のこなしで次々と敵を沈めていく。

その時、メルの背後にガタイの良い男が立った。その逞しい腕で持ち上げられているのはウィスキーの樽だ。

頭上に掲げられた影に、思わず目を見開く。


(しまった!)


ーーと。
ローズピンクの瞳が危機に揺れた、次の瞬間だった。


突然、男の掲げていた樽が勢いよく叩き割られた。滝のように溢れ出すウィスキーの香りにむせ返る。

一体、何が起こったんだ?

状況が理解できず動きを止めたその時。メルの視界に飛び込んできたのは、綺麗な薔薇色の瞳だ。


「メルさん!無事ですか…っ!!」

「ダンレッド!?」

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