お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
思わぬ救世主の登場に言葉を失うメル。彼がここにいるはずがない。
しかしそれは紛れもなくクロノア家の用心棒、ダンレッドであった。
彼は、樽から出たウィスキーの重心の動きによろめいた男の脇腹を強く蹴り込み、ズダン!とマウントを取っている。
「ダンレッド、お前、どうしてここに…!!」
「いやっ、メルさんを尾けて来たら大変なことになってたので、つい…!」
「……“尾けて来た”?」
「だって、あのメルさんがどんな人を好きになるのか気になるじゃないですか!絶対美人と待ち合わせしてると思ったのに、お洒落なレストランに向かうどころか、ひと気のない倉庫に入って行くし…」
「お前ってやつは…」
野次馬精神で人を尾行して来たらしい少年。
ここまでの窃盗団との会話で全てを察しているようだが、ダンレッドは苦笑しながらメルに続けた。
「ところでメルさん。お相手は随分と物騒な彼女ですね。それもこんなにたくさん。」
「あぁ、ちょっと修羅場でね。」
「ふぅん。モテる男は大変だぁ…」
こっちのことなど気にせず会話を始める少年達に、ムッ、と顔をしかめた男たち。その数は、まだ四、五人ほど残っている。
「加勢しても?」
ふっ、とメルを覗き込むダンレッドに、観念したようにため息をついたメルは、艶やかに笑って低く答えた。
「あぁ。日付が変わる前にケリをつけよう。」