お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
頷いたメルに、護衛としてウォーレンに続くダンレッドはひらひらと手を振って去っていく。
やがて、二人の後ろ姿がゲストたちの波に消えた頃、メルは小さく息を吐いて懐中時計を見つめた。
(会場入りして一時間…。一人で待たせてしまうなら、隣国からの汽車が着く駅までお迎えに上がればよかった。)
メルは、クロノア家の令嬢が帰国した後、彼女の専属執事として就くよう任されていた。
もちろん、それはウォーレンに仕えてきた姿勢と執事としての実力が評価された結果であり、築いてきた信頼の賜物でもあった。
大切な一人娘であるためか、ダンレッドまでも専属護衛につけると言われたのは予想外だったが。
(たしか…、娘さんの名前は“ルシア”さんだっけ。)
メルがウォーレンから聞いていたのは名前と歳だけで、彼女の外見についてのことは何一つ知らなかった。
留学中の彼女から送られてくる近況報告はエアメールのみで、自身の写真などは添付されていない。屋敷の使用人達の話では、容姿が整っているウォーレンの血筋を引いた美人であるらしいが、彼女は自分の美貌をひけらかそうとしない謙虚な性格らしかった。