お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
その時、ふと、視界に二人組の男性と話している少女が目に入った。
微かに耳に届く会話で使われている言語は、この国の言葉ではない。どうやら、彼らは隣国のロージアンからのゲストらしい。
しかし、それは知り合いというにはよそよそしく、少女の顔色が悪かった。男の方が無理やり少女に絡んでいるようだ。
(ナンパか。甘やかされた貴族な分、タチが悪い。)
基本、メルは身内の危機以外ではトラブルに首を突っ込む主義ではない。揉め事を起こして主人の顔に泥を塗るなどあってはならないからだ。しかし、なんだかんだ放って置けない性分が騒ぎ出し、いつの間にかメルの足は彼らに向いていた。
『すみません、少しよろしいですか?』
流暢な発音。
隣国のゲストたちは、ここでそう聞かないであろう母国語に、はっ!と顔を向けた。
メルは、すらすらと言葉を続ける。
『貴方がたは、宮殿料理長の御子息サウス様と、コーニエル財閥のジナルマ様ですね。』
名を呼ばれた男たちは、ぎょっ!としている。
『お話中に申し訳ございません。…先ほど、城の給仕係がお二人を探していたようでしたので、何か急ぎの電報が届いているかもしれません。』
『何だって…!』
『ちっ。タイミングが悪いな。おい、行くぞ。』