お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
言われるがまま、不機嫌そうな表情で去っていく男たち。名前を言い当てられたせいか、それが偽情報だと疑いもしないようだ。メルのことも、この城に仕えるバトラーだと上手く勘違いしたらしい。
やがて、ぽつん、と取り残された少女とメル。
穏便に事が済み、小さく息を吐いたメルは、そっと振り返る。
その時、初めて目が合った。
ぱっちりとした瞳に、白い肌。その華奢なシルエットは、思わず見惚れるほど可愛らしく、男が寄ってくるのも頷ける。そして彼女には、箱入り娘と言わんばかりの純朴そうな雰囲気とどことなく漂う品があった。
『大丈夫ですか?』
メルの言葉に、苦笑した彼女は、おずおずと口を開く。
「すみません、大丈夫です。ありがとうございます。」
「この国の言葉が分かるのですか?」
「はい。私、この国で生まれ育ったので…」
どうやら、彼女はこの国の貴族だったらしい。隣国のゲストだと決めて疑わないほど綺麗な発音に、メルは思わず感嘆の声を上げた。
「てっきり、ロージアン出身の方かと思いました。語学が堪能なんですね。」
「ふふ…っ、ありがとうございます。…貴方こそ、さっきロージアン語で喋っていたでしょう?もしかして、留学の経験がおありで?」
「いえ…。私は独学でかじった程度ですので。私が喋れる会話の範疇で済んでよかった。」
「そうだったんですね…!実は、さっきからしつこく付きまとわれていて困っていたんです。助かりました。」