お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
鈴のような彼女の声は、とても聴き心地がいい。穏やかで聡明で謙虚な姿勢は、とても好感が持てた。
彼女は、きっと上流階級の家庭で生まれ育ち、大切に育てられてきたのだろう。ナンパのあしらい方を知らない点で、男慣れしてない清楚な印象を受ける。
その時、彼女は不思議そうな表情でメルを見上げた。
「ところで、今の男の人達とは、お知り合いなんですか?」
「いえ。話したのはさっきが初めてです。」
「え…っ!じゃあ、どうして彼らの名前を?」
「あぁ。このパーティーの参加者は大体頭に入っているので。そうすれば、私の仕えている主人が挨拶するときに会話をサポート出来るでしょう?」
すると、メルの返事を聞いた途端、彼女は好奇心に駆られたように頬を染めてメルを見た。それは、羨望の眼差し、といっても過言ではない。
(そんなキラキラした瞳で見つめられても…)
彼女の眼差しがどこかの用心棒と重なって見えたその時。彼女は、はっ!としたように肩を震わせた。
「すみません…!助けていただいたのに、名乗るのを忘れていました。私は、ルシアと申します。えっと、家はそんなに大富豪というわけではないので、貴方のような上級の執事さんとはもう会うこともないかもしれませんが…」
(ルシア…?)