お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
目を見開くルシア。
顔をしかめる男たち。
と、次の瞬間。
メルと男たちの間に割って入るように現れたのは、薔薇色の瞳の少年だった。
「あんたら、メルに何してんの…?」
思わず震えるほど冷たいトーン。
言語の違いで意味は伝わっていないらしいが、ダンレッドの殺し屋のような鋭い視線に、二人は体を硬直させている。
『おい待て、この執事どこかで見たことがあると思ったら、噂の最年少一級執事のメルじゃねえか…?!』
『あぁ、この短髪の男も、クロノア家に飼われてる“番犬”だって……』
男達がざわざわと騒ぎ出したその時、辺りに凄みのある低い声が響いた。
「君たち、私の娘に何か用かね?」
ウォーレンの登場に、敵に回した執事が誰なのか一瞬で悟ったらしい彼ら。メルは、勝てないと判断するや否やそそくさと退散していく男達に軽蔑の視線を送っている。
隣国の一般貴族にまでも名が知れているのは予想外だったメルだが、クロノア家はメルが執事として仕え始めた頃よりもずっと階級が上がったらしい。