お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》


「おや?帰ったのか、ルシア。」


その時、玄関先で出迎えたのはウォーレンだ。揃って外出を満喫した様子の三人に、ウォーレンは微笑ましげに表情を緩める。

と、その時。

メルを見たウォーレンが、はっ、と何かに気付いたように目を見開いた。


「そうだ、メル。今朝、お前宛てに手紙が届いていてな。屋敷に来たら渡そうと思っていたんだ。」

「手紙、ですか?」


すっ、と胸元から一通の封筒を取り出すウォーレン。受け取ったメルの手元を、ルシアとダンレッドが興味深そうに覗き込んだ。

質の良い白い封筒には金色のインクで細やかな装飾が施されている。そして、そこに送り主の名はなく、アンティークデザインの薔薇の花だけが刻まれていた。


「メル。差出人に心当たりはあるの?」


ルシアの問いに、メルはまつげを伏せる。長い指で薔薇の花をなぞったメルは、冷静な声で答えた。


「これは執事協会の刻印です。本部からの通達のようですね。」

「「執事協会?」」


後にこの一通の手紙が大波乱を引き起こす引き金となることに、この時は誰も気が付かなかったのである。

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