お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
泡沫の恋情

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「ルーゼント家のバースデーパーティーに招待された?!!」


翌日。

クロノア家の庭に、ダンレッドの大声が響いた。

ガーデンの花々に水やりをしていたメルは、まるで他人事のように答える。


「うん。正式には、招待じゃなくて執事補佐として呼ばれただけ。手を貸して欲しいんだってさ。」

「すごいよ、メル!この前の手紙、招待状だったんだ?ルーゼント家って、有名なお金持ちでしょ?俺でも知ってるくらいだもん!」

「そうね。ウチとはたまに挨拶する程度の仲だけど。」


ルーゼント家は、国内でも名の知れた大財閥であり、執事協会を取り仕切っているトップでもある。

執事協会とは、メルのような執事を派遣管理する団体であり、執事としての資格証を発行するのも仕事の一つである。そのデータベースには全国の執事が登録されており、仕えている家の状況や執事の実績などが集められるシステムだ。


ルーゼント家の令嬢クラリアの誕生会は毎年開催されており、経済界からエンタメ業界まで幅広くゲストを招いている。そして、執事協会に登録されている中から選りすぐりの執事が補佐としてその会に呼ばれ、ゲストのもてなしに駆り出されるというのが恒例であった。

もちろん、補佐として声がかかるのは執事としての実力が認められたということであり、大変名誉なことなのだがメルはどこ吹く風である。


「ダン。目をキラキラさせてるところ悪いけど、この話は断るよ。」

「えええっ?!!ど、どうして?!」

「俺が執事補佐として出向けば、お嬢様を一人にさせてしまうでしょう?俺は彼女の専属だから他に注ぐ力なんてない。」

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