お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
素早く背後をとったダンレッド。
しかし、予想に反し、男はひらりと躱す。
反応されると思っていなかったダンレッド。やはり、この男は只者ではない。
妙な確信を得て、ガッ!と男の腕を掴んだダンレッドは、力任せに引き寄せた。そして、「おっと」と抵抗せずに目を見開く男を連れて執務室の扉を叩く。
「旦那様!不審者です!!」
勢いよく執務室へ入るダンレッド。
すると、驚いて顔を上げたウォーレンは、ダンレッドに拘束されている男を見て声を上げた。
「ミカゲじゃないか…!ダンレッド、彼を離してやりなさい。彼は私が呼んだんだ。」
「へっ!?」
目を見開くダンレッドに、男はくすくすと肩を揺らした。
紺碧の瞳が艶っぽく緩み、ミカゲと呼ばれた彼は低く呟いた。
「愉快な屋敷だね。うちのメルは、こんな仲間に囲まれてるのか。」
ぱっ!と手を離したダンレッドが男の素性を知ったのは、それから数秒も経たないうちだった。