お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
ダンレッドは、黙っていた。
慰めるように彼女の肩を抱くわけでもなく、同調するように頷くわけでもなく、ただじっとルシアを見つめていた。
「お嬢さんは悪くないよ。いい子でいるって、すごいことだよ。」
ぱらぱらという雨の音だけが二人の間に流れる。
「メルは、そんなお嬢さんだから大事なんだよ。」
穏やかに目元を緩めたダンレッド。励ます彼のセリフに、ルシアも笑い返した。
やがて、雨がしとしとと優しくなり、小降りになる。顔を上げたダンレッドは、トタン屋根の外に手を出して雨の強さを測り始めた。
と、次の瞬間。ダンレッドは、はっ!としたように目を見開く。
「あっ!そうだ!!」
がさごそとポケットに手を入れるダンレッド。
その手にあったのは、携帯電話だ。
「うわ〜、最悪!最初からメルに電話すればよかったんだ…!!俺のばか〜!!」
「ダンレッドは悪くないわ…!それに、メルはお仕事中だから電源を切っているかもしれないし。」
すると、携帯電話の電源を入れた瞬間、ダンレッドは薔薇色の瞳を大きく見開く。
「メール三十件に、不在着信二十件!?ど、どういうこと?」
思わず叫んだダンレッドがその送信元を見た、その時だった。