お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
メルは、ウォーレンからの連絡を受けるや否や、代役をミカゲに頼んですぐにパーティーを出たらしい。代役として申し分ない実力の執事で穴を埋めることで、クロノア家に苦情が入ることを阻止する徹底ぶりである。
そして、普段は気怠げで自由奔放なミカゲも、愛弟子のためにすぐに馬車で駆けつけてくれたそうだ。
「そうだ!引き抜きは…?!メル、クラリアってお嬢様に言い寄られてたでしょっ?!」
ダンレッドの言葉に、ルシアも不安げにメルを見上げた。
すると、メルは表情一つ変えずにさらり、と答える。
「その話は蹴ったよ。」
ルシアとダンレッドの瞳に光が差す。
メルは、呆れたような視線を向けて低く続けた。
「俺がお金でなびくと思った?ばかにしないで。俺は、他の誰かにお嬢様の専属執事を譲るつもりはないから。」
無意識に、ルシアの頬に涙がつたった。
彼女の顔を見た瞬間、メルはぎょっ!として体を強張らせる。
メルは、先ほどまでと打って変わり、動揺したようにおろおろとルシアを見つめた。ずぶ濡れの白い手袋が、ぎこちなく彼女の背中を撫でる。
「すみません、お嬢様。少しきつい言い方をしました。びっくりさせてしまいましたね。」
「ううん、違うの。謝るのは私の方なの。安心したら、力が抜けちゃって。…メル。心配かけて、ごめんなさい。」