お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
にこやかな挨拶を終えたロヴァに、メルは視線を送る。
「ロヴァさん。わざわざ立ち寄っていただきありがとうございます。ところで、今夜のドレスは特注品だったのですか?」
「あぁ。ルシア直々の頼みでな。ローズピンクのドレスにしてくれ、ってさ。ははっ、メル。お前も隅に置けねぇな。」
「はい…?」
人差し指をこちらに向けたロヴァ。ニッと笑った彼は、こっそりと耳打ちした。
「お前のその瞳の色が好きなんだとさ。」
一瞬跳ねる心臓。
ドレスをまとう、幸せそうな彼女の姿が目に映る。
「俺は遠回しにラブレターでも作ってる気分だったぜ。」
「からかわないでください。お嬢様に他意はありませんよ。」
「ま、今度じっくり飲み明かそうぜ?行きつけのバーを予約して、仕立ての予定を空けておくからよ。」
その時、ちょうど城の係の者が控え室の扉を叩いた。どうやら、舞踏会の準備が整ったらしい。
「メル。準備はいい?」
「はい。参りましょうか。」
半歩後ろに付いたメル。すると、いつもは気にならない彼女のうなじが目に止まった。
気付かれないように視線を逸らすメルは、悶々とする中、背後からこちらをニヤニヤ見ているだろうロヴァを心の目で睨む。
(…本当、余計なことを…)
頭に響くロヴァのからかうようなセリフを必死で押し込めながら、メルはクールな表情を崩さぬまま、ルシアと共に会場に出向いたのだった。